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茶道口に見立てたラグの隅で、お盆を前におくとスッとお辞儀をした。
気持ちを改め姿勢を正してだけで、こんなにも心が落ち着く。
桜子は、自分の見かけがやや洋風よりであったとしても、中身は根っからの日本人なのだと、ストンと納得がいった。
その桜子が頭をあげると同時に、静かな部屋のなかに、無粋な電子音が響き渡った。
パリンッと音をたてるように、部屋のなかの凛とした空気が、単なる桜子の部屋へと後戻りする。
「……でた方がいいんじゃない?」
鳴り響く電子音は、着信なのだと告げている。
ビクリと肩を震わせてから、しばらく固まっていた紫苑が桜子と常葉に頭を下げながら、涙目で電話に出た。
「は、はい……かしこまりました」
しょんぼりと項垂れる紫苑を見て、どうやらお茶会ごっこをしている場合ではなくなったようだと感じた。
「月白さまでした……すみません…………戻らないと」
フラフラと歩きだした紫苑は、桜子の前まで来ると深々と頭を下げる。
「本当に申し訳ありません」
「ううん、気にしないで」
「つ、次こそは……」
また鳴り出した電子音に、弾かれたように部屋を飛び出していった紫苑を、桜子と常葉は気の毒そうに見送った。
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