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「……お茶会の真似事はおしまい」
「まぁ、観光客いないしね」
ぼそっと呟いた桜子の言葉に、うんうんと常葉が頷いた。
どうやら、常葉にも紫苑の動きは観光客に見えたようだ。
さっさとケトルや鍋敷きを片付けて、狭いキッチンスペースでしゃかしゃかとお茶を点てだした桜子に、常葉が後ろから抱きついた。
「……邪魔なんだけど」
「可愛すぎるさくちゃんが悪いんだよ」
「変なこと言ってないで離れて」
「さくちゃんはさ、分かってないよ」
桜子がなにを分かってないと言うのだろうか。
強いて言うなら、ここに来てから分かることの方が少ないのだけれど。
「さくちゃんは軽い気持ちで『頑張って』って言ったんだろうけど。僕の心臓は鷲掴みにされたんだ」
「……してない」
「さくちゃんがほしい」
「あげません。ほら、みそまんじゅう食べるわよ」
腕のなかからすり抜けるように逃げ出すと、桜子はきれいなの三日月の浮かぶ抹茶椀とみそまんじゅうのお皿を持ってテーブルに向かった。
「あれ?僕のお茶は?」
「半分こ」
桜子がそう言うと、常葉はやけに嬉しそうな顔をした。
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