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「恋なんて……」
恋なんて、したこともないのに。
それなのに、なぜ旦那候補が三人もいるのだろう。
窓の外をみる桜子の視線は、自然と深い緑のなかをあの桜の木を探すようにさまよった。
そうか……こういうときの為にも、場所は教えてくれなかったのね。
寂しいような見透かされているような、妙な気持ちを抱えながら、桜子は残り少なくなった抹茶をひとくち口に含んだ。
切ない気持ちは洗い流れずに、口のなかはいつまでもほろ苦かった。
「今、誰を想ってる?」
「……なにも」
なにを、ではなくて、誰をと聞く常葉に、頭のなかを見透かされたような気がした。
苦い顔をして眉間にシワを寄せるあいつの顔が、ちらつくのを振り払うように頭をふる。
余計なことを考えてしまわないように、今日も進まない勉強でもしよう。
「常葉、私は通信の高校とかなら許される?」
許されるってなんだろう。
誰の許しが必要なのだろう。
法律上は保護者であっても、一度も顔をあわせたことことのない祖父に、なぜこんなにも遠慮しないといけないのだろう。
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