第4章

41/67
前へ
/484ページ
次へ
常葉があわただしくいなくなると、途端に部屋のなかが静かになった。 柔らかな風が窓から飛び込んでは、白いレースのカーテンで遊ぶ。 山の上だからだろうか。 もう真夏な筈なのに、窓を開けておけば済むくらいに暑さが穏やかだ。 「……いつまで、このままなのかな」 ずっと、彼ら三人にしか会わず、ここに軟禁されたまま年月が過ぎるのだろうか。 寂しくて恋しくても、忍ぶ場所すら壊された。 きっと、純血の月の鬼には血も涙もないんだ。 そう思ってから、おかあさんに小さくごめんなさいと呟いた。 おかあさんも純血だった。 生きていたら、なにがどう変わっていただろう。 きっと、この場所で籠の鳥にはならなかったのだろう。 おとうさんは、おかあさんが鬼だといつ知ったのだろう。 それで……愛情は揺らがなかったのかしら。 とりとめもなく思考を巡らせる桜子の胸のなかには、いくつも穴が出来ていた。 おじいちゃんを亡くし、思い出の詰まった家も壊され、いつか帰ろうという思いすら砕かれて、なんのためにここに自分がいるのかも分からなくなっていた。
/484ページ

最初のコメントを投稿しよう!

704人が本棚に入れています
本棚に追加