704人が本棚に入れています
本棚に追加
「……ぇ?」
「月白さまがね、明日帰ってくるんだ。
少しの時間しかいられないけど、さくちゃんに会いたいって」
うたた寝から覚めた桜子は戸惑ったように視線を揺らす。
それも仕方のないことだろう。
桜子がこの離れに連れてこられたのは初夏で、今は既に夏も終わりに近づいている。
その間、少なかったとはいえ月白である桜子の祖父は何度か帰ってきていた。
それを紫苑たちは桜子には話している訳ではないけれど、紫苑や常葉の動きからそれとなく感づいてはいたのだ。
「……なんで?」
「それは私たちにも分からないんですよ。ただ、明日連れてこい、と」
紫苑や常葉にそれとなく言われていたのは、桐井のおじいちゃんとは別物だってこと。
会いたいかと言うと素直に『はい』とは言えないけれど、それでも会ってみたいという気持ちも嘘ではない。
複雑そうな桜子の顔を、気の毒そうに見ていた紫苑が言いにくそうに言った。
「……すみません、決定事項なんです」
桜子の意見などというものは、誰も聞いていない。
そう言うことなのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!