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そして当日の朝、いつものゆるっとした服装ではなくピシッとスーツを着た常葉が訪れた部屋のなかでは、桜子がなんとも情けない顔をして珠の背中を撫でていた。
「さくちゃん、おはよー」
「おはよう……」
「あー、ちゃんと寝なかったでしょ?
寝ないとお肌に悪いんだよー」
努めていつも通りを装う常葉に、力なく微笑む桜子は既に緊張しすぎてだいぶ消耗しているのが見てとれる。
「……髪の毛どうするの?」
「その前にお肌かなー」
「そんな荒れてる?」
「うーん、荒れてるって言うか、くすんでるねー」
グサッと刺さった言葉に胸を押さえる桜子を、さっとソファに座らせて手にクリームを取ると顔に馴染ませ始めた。
マッサージするように柔らかく肌の上を滑る指の動きに、最初体を固くしていた桜子も、いつしかリラックスしたように肩の力を抜いている。
「気持ちいいでしょ?今度全身エステやってあげるね」
「……常葉が言うといかがわしいわね」
「うわー失礼しちゃうなー。僕ちゃんと資格持ってるんだからね」
「……ほんと、ここの人って引き出しが多すぎるわ」
私なんて、なんの取り柄もないのに。
自嘲するような微笑みは、桜子の肌はほんのりと色づいているのに、一瞬顔に影を落とさせた。
「さぁてと……マッサージ完了!
メイクはバッチリしなくていいと思うんだよね。さくちゃん美人さんだからさ、少ーし瞼にラメおいて色つきのリップで十分」
「……お任せします」
「任されました」
おどけて敬礼して見せる常葉に力なく微笑むと、されるがままに髪もいじられる。
常葉ら、桜子のふんわりとした髪質を生かそうと、きっちりまとめずに編み込みをしながらハーフアップにしていく。
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