第4章

55/67
前へ
/484ページ
次へ
無言でいきなり振り上げた杖が、空気を切って唸ると一番手前に立っていた青藍の頬を打った。 息を飲んで目を見開くことしか出来ない桜子の前で、次々と紫苑と常葉の頬にも杖は唸りをあげた。 「躾がなってないぞ」 「「「申し訳ありません」」」 きっちり合った三人の声に含まれるのはなんだろう。 カツンと杖が床に当たった音で、桜子の体がビクリと跳ねた。 しかし、そんな桜子に目を向けることすらせずに、クルリと踵を返して部屋を出ていく。 その後ろでキッチリとドアが閉まるまで、三人は直立不動を貫いていた。 口元を押さえて崩れ落ちた桜子を、咄嗟に一番近くにいた青藍が抱えた。 「さくちゃん、大丈夫だよ。さくちゃんはなにも悪くない」 後は、走り去る車の音を聞いて常葉が口を開くまで、部屋のなかは音をなくしていた。
/484ページ

最初のコメントを投稿しよう!

704人が本棚に入れています
本棚に追加