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青藍に抱えられて離れの桜子の部屋に帰ってくると、紫苑は赤いケトルにお湯を沸かし始め、常葉はお菓子をお皿に乗せだした。
青藍は、黙ったまま桜子を抱きしめてソファに体を沈める。
震えの止まらないその背中を、ゆっくりと撫で下ろす大きな手と、頬をなめる珠の青い瞳に、桜子の乱れた呼吸も少しずつ落ち着きをみせた。
「さーくちゃん、マカデミアナッツのクッキーと、アーモンドキャラメルのとどっちがいい?」
桜子は、涙でいっぱいの瞳で常葉を見るとごめんなさいと言おうとした。
しかし、言葉は紡がれずに微かな吐息が空気を揺らすだけ。
「……さくちゃん?」
「またか」
怪訝そうな顔をする常葉を制して、青藍がまた桜子を抱え直した。
大きな腕のなかに包まれるようにして震える桜子は、なぜ安心出来るのだろうと不思議になる。
「精神的なものですね?」
「あぁ」
「じゃあ、無理に声を出そうとしないでいいですよ。
ただ、本当に、悪いのは桜子さんではありませんから、ご自分を責めてはいけませんよ」
ゆっくり桜子の髪を撫でるのは、大きいけれど繊細そうで優しい紫苑の手。
「月白さまのことは桜子さんも『月白さま』と、お呼びしてくださいね。それをきちんと伝えていなかったせいで、桜子さんに怖い思いをさせてしまいました」
許してくださいね。
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