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痛みが、怪我が、自分に移ればいいのに。
そう、強く強く願いながら桜子の白くて細い指先が、また青藍の頬にふれた。
一瞬、フラッシュのように淡い光が辺りを包んだ。
咄嗟に目を閉じた桜子の指先に、おもいっきり殴られたような痛みが走る。
「ぁぅ……」
「なにをしたっ!」
手を抱き抱えるようにしてうずくまった桜子に、声が出たねと話しかける者はいない。
「わかんな……」
なにが起きたのか分からなかった。
ただ、余りにも痛むので目尻に涙が溢れるだけ。
「青藍!怪我がっ!」
常葉の声に顔をあげると、先ほどまで唇の端に血が滲み明日には青黒くなりそうだった頬の痣が、なぜかスッキリと治っている。
「手を見せろっ!」
抱え込んでいた手を無理やり引っ張られたせいで、また痛みが走る。
痛みに脂汗を流す桜子の手には、青藍の頬にあったものと全く同じ打ち傷があった。
「移したのか……!?」
なんの事か分からないと涙目で見上げると、いつの間に用意していたのか、紫苑が氷水を入れたビニール袋を握らせた。
ひんやりとした氷水が熱を持つ手のひらに心地よい。
しばらく冷やしていると、痛むのは痛むけれど、じんじんとした鈍い痛みにかわり、桜子はほぉっと息を吐き出した。
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