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「痛かった……」
正確には今も痛い。
けれど、それはしょうがないかと小さく呟いた。
あと二回、この痛みを耐えようと、反対の手を常葉の頬に伸ばした。
「ダメだよ」
途中で掴まれた手首は、しっかりと空中に固定されて頬まで届かない。
不満を隠しもせずに眉を潜めた桜子の頬を、常葉が軽く摘まんだ。
「自分の痛みをさくちゃんに肩代わりさせるくらいなら、もっと痛くなってもかまわないよ」
「でも……」
それは、私が受けるはずの痛みだったのに。
常葉の言葉を聞いて、無表情だった青藍の顔が歪んだ。
「青藍のは事故みたいなものでしょ?」
常葉の言葉はまるで宥めるように優しいけれど、青藍の渋面は変わらない。
すっきりと、きれいな肌には打たれた跡は欠片も残っていない。
それなのに、一番痛そうな顔をしている。
「……お前の、その能力は隠し通せ」
「ぇ?」
「悪用しようとするやつが現れる」
珠を抱えて座り込んだ桜子に、青藍がすっと近寄るとその背の高さに何故か体が震えた。
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