第1章

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泣き疲れて、声が枯れ果てても 涙というものは、なかなか枯れないものらしい。 泣きすぎて腫れぼったくなった瞼や、涙で霞む瞳。 拭いもしないで流れつづける涙の筋がいくつもついた白い頬。 雨戸も締め切った部屋のなかで、もう何日泣き暮らしているのか、桜子自身にも分からなくなっていた。 カチコチと時を刻んでいた時計は、畳の上に取り出された電池と共に転がっている。 その隣では、電源を切られて只の小さな板と化したスマートフォンも落ちていた。 毎日、小さなこの家の主がめくっていた日めくりは、めくられなくなったその日で、時をとめている。
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