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その夜、桜子は熱を出した。
大きな手が、そっとおでこに乗せられると割れそうに痛む頭が、少しだけ楽になるような気がした。
夢の中で、繰り返し青藍たちを叩く月白を見ては、声にならない声で止めてと叫ぶ。
ハッと目を覚ますと、じっとりと嫌な汗をかいた桜子の頬を、安心させるように珠がなめてくれる。
それに安心して、ゆるゆるとまた眠りのなかに落ちていく。
「解熱剤」
「熱は下げればいいってものでもないんですよ」
「でも……さくちゃん苦しそう……」
「……そうですね。どちらかというと、精神的ストレスが原因だと思われます」
三人の会話をぼんやりと聞きながら、紫苑の言葉がまるで病院の先生みたいだと思う。
その声とは別に、濡らしたガーゼで額の汗を拭ってくれる手は、少しだけ不器用で、優しかった。
「……月白さまは、どういうつもりなのかなぁ…………」
常葉の言葉に、青藍も紫苑も返事をしない。
別段返事を求めていた訳ではないのか、常葉もそれ以上はなにも言わなかった。
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