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静かな部屋のなかで、重厚なデスクに向かうのは桜子の祖父、月白。
その隣で立ったまま、スケジュールを手帳に書き込むのは、青藍だ。
重苦しい部屋の空気はいつものこと。
この空間が居心地のよいものであった試しはない。
「……あれは、どうしている」
「体調を崩したようです」
「……そうか」
どちらも桜子の名前は口にしない。
まるで、タブーででもあるかのように。
「こいつについて調べろ」
パサリとデスクの上に投げ出されたのは、一通の手紙と写真。
艶やか黒髪の真っ赤な唇と黒々と輝く瞳が印象的な和服美人。
「これは……」
「橘と東雲は元はひとつの家だ。
これが、本当に橘の直系ならばうちに養子としていれることも念頭に置いておけ」
「東雲には、既に跡継ぎがいます」
「よく寝込むのだろう。人間の血のせいで弱い個体など、跡継ぎに相応しくはない」
いったい誰のせいで桜子が熱を出していると……
ギリッと奥歯を噛みしめながら、青藍は怒りに燃える瞳を隠すように頭を下げた。
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