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熱が下がっても、動く気にもならなかった。
期待なんてしていなかった筈なのに、生きている唯一の肉親に、あぁも拒絶されてみて初めて、自分がなにか暖かいものを求めていたことに気がついた。
馬鹿みたいだ。
ゆっくりと瞼を閉じると、涙がまた頬を伝う。
「泣くな」
低い声がすぐ側で囁いた。
不意に現れるこの人たちに、いつの間にか慣れたのか驚きもしなかった。
「そのまま目を瞑ってろ」
その言葉に、どこへ連れていってくれるのか分かった桜子は、思わず大きく目を見開いた。
すぐに大きな手で視界を塞がれて、ふわりと体が宙に浮く。
その手の壊れ物を扱うようなぎこちない動きに、寝込んでいたとき額に当てられた大きな手を思った。
そっか……
「少しだけだ」
ストンと地面におろされて思わずよろけた桜子を、腕を掴んで立たせると、また少し離れた所で煙草に火をつけた。
桜子は、ペタリと桜の木に両手を当てて挨拶をした。
すごく……久しぶりな気がするね。
もっと頻繁に来たいんだけどね、あいつが許してくれないの。
ペタリと地面に腰を下ろして、背中を桜の木に持たせかけた。
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