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「解放すればいい」
そう言われても、いったい何を解放したらいいのかさっぱり分からない。
おでこに神経を集中してみたけれど、大きな鏡のなかの桜子に変化は見られない。
分かりやすく自分を認識するためだとかで、桜子は今大きな鏡の前に立たされている。
しかし、鏡のなかの桜子は、困ったように首をかしげただけだった。
「……またこれを飲むか?」
桜子の顔の前に、フワフワと漂ってきたのは、青藍の青い炎。
すっかり忘れていたけれど、そう言えばこんなものを飲まされたのだと、あわてて桜子は口を塞いだ。
何故、あの焦げ付くような痛さを忘れていたんだと、自分の忘れっぽさに身震いをする。
「これで抉じ開けるのが簡単なんだがな」
鏡のなかの青藍の微笑みが冷たい。
最近、少しは態度が軟化してきて、桜の木のことから少しいいやつかも知れないと気を許しかけていた桜子は、以前の冷たいだけの青藍を思い出して胸が痛んだ。
なぜ、こんなにも痛いのだろう。
そこをぎゅっと抱き締めようとした途端、なぜかフワリと髪の毛が宙に浮いた。
驚いて鏡のなかを見ると、キョトンとした桜子の向こうで柔らかく微笑む青藍が見えた。
「どこを見てるんだ」
「ぁ……」
「それが月の鬼としての、最低限のステータスだと思え」
鏡のなかの桜子は、桜色の髪に晴れた空のような空色の瞳をしていた。
これが、鬼としての……私。
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