第5章

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勝手に涙がこぼれ落ちた。 途端に、部屋のなかの物が暴れだす。 宙に浮いたグラスがパリンと音をたてて割れると、カーテンが風もないのにバタバタとはためいた。 ラグが波打ったと思ったら、ローチェストの上の花瓶が派手な音をさせて砕け散ると、ベッドがグラグラと揺れる。 急に視界が暗くなって、ふわりと煙草の香りがした。 叫び出しそうに暴れる桜子を、しっかりと受け止める腕が、優しくて苦しい。 「落ちつけ、大丈夫だ」 耳元に落ちる低い声が、桜子の心をなでる。 なにが大丈夫なのか、欠片も分からないのに、心はゆっくりと落ち着いてくる。 「ゆっくり物を元の位置にもどしてみろ」 重たいはずのベッドが脚を一本テラスに出すほど、窓に寄っているし、テーブルは完全に逆さまになっている。 これをどうやって運ぶのだろうと一歩踏み出した所で、後ろからまた抱きしめられた。 いや、止められただけかもしれないけれど、桜子にとってはもうどちらでもいいことだった。
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