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「手で動かしてどうする。浮かせて元の位置に戻してみろ」
「ぇ……」
「さっき、あれを移動したのはお前だ。その力をコントロールする」
なんのための実地だ。
鼻で笑う青藍の瞳が、以前のように冷たく感じないのは、桜子が変わったせいか、それとも変わったのは青藍か。
桜子は、珍しく素直に視線をベッドへと移動すると、なんとなく『うごけ!』と念じてみた。
しかし、残念なことに重たいベッドはピクリとも動かない。
「紫苑が、この部屋を何から何まで桜色で揃えたのには訳がある」
訳?
桜子って名前だから、安易になんでもピンクにしたのかと思っていた。
それか、女の子の色ってイメージだったのかと。
首を傾げる桜子の頭の上に軽く顎を乗せて、つまらなそうに説明する青藍の表情を見ることは出来ない。
「自分の鬼火の色と一緒だとコントロールしやすい。だから、この部屋は桜色で揃えてある」
「……青藍の部屋はみんな青いの?」
頭の上で青藍が、フッと笑ったのが分かる。
「なによ!」
「いや、やっと俺の名を呼んだな」
なにがそんなに面白いのだろう。
くつくつと笑う振動が、笑われているはずなのに、なぜか嫌ではなかった。
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