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青藍のお母さんについて聞いた訳じゃない。
それは、もちろん青藍も分かっているだろう。
ゆっくり振り返った青藍の瞳に映るのは、目の前の桜子ではなく、もう会うこともできない蒼子。
「蒼子さまは、俺の青い春そのものだ」
その瞳に苦いような切ないような色を浮かべてフッ息を吐き出すように微笑んだ青藍を、桜子は黙って見ていた。
返事の言葉は喉に詰まって出てこない。
青藍も、別に返事は期待していなかったのか、ちゃんと休めとだけ言うと、静かに部屋を出ていった。
パタンと閉まったドアの向こうに青藍が消えても、桜子は動くことすら出来なかった。
芽生えたことを自覚した瞬間、手が届かないと言われたようなものだ。
胸の疼きを押し込めるように、ぎゅっと自分に両腕を回した。
そして、どこで買ったのか、ほかほかのたい焼きを抱えた常葉が現れるまで、桜子はそのまま動けなかった。
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