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「さーくちゃん、お茶しましょ」
歌うように言いながら、例によってノックをしないで入ってきた常葉は、うつ向いて自身を抱き締めている桜子に驚愕した。
ポロリと手から落ちそうになったたい焼きの袋を、かろうじて桜子の側のテーブルに置く。
まだ動こうとしない桜子を、下から見上げられるように床に膝をついた。
「さくちゃん、どうしたの?
青藍にいじめられた?」
首を横に振る桜子は酷く悲しげで、その苦しそうな顔を見ているだけで謂れのない罪悪感が常葉のなかにこみあげる。
「さくちゃん、なにがあったのか教えて?」
常葉の懇願するような視線と声に、桜子はなんでもないと首を振り続けられなかった。
自分を見上げる常葉の深い緑の……常葉色の瞳を、こぼれそうな涙を堪えて見つめ返す。
「……痛い……苦しぃ」
息が詰まって胸が張り裂けそうに痛い。
こんなの知らない。
……知りたくない。
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