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涙を浮かべて苦しいと言う桜子に、どこが痛いのか聞きもしないで常葉は抱き締めた。
包み込むように抱き締める常葉の腕のなかで、桜子は涙をこぼす。
「……いつから?」
「……わかんない」
そんなの分からない。
いけすかない奴だと、天敵だと、思っていた筈なのに。
常葉の鼓動が、少し早く大きく感じた。
それとも、これは桜子の鼓動だろうか?
静かになった部屋に、薔薇の香りを含んだ風が吹き込んだ。
桜子と常葉の同じ色の髪が、ふんわりと巻き上げられる。
「だいっきらいなのに……」
「だったのに、でしょ」
まさかあいつがライバルとはねーと常葉がため息をついた。
紫苑が本命かと思ってたのに。
ダークホースのお出ましだ。
「本命?」
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