第5章

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涙を浮かべて苦しいと言う桜子に、どこが痛いのか聞きもしないで常葉は抱き締めた。 包み込むように抱き締める常葉の腕のなかで、桜子は涙をこぼす。 「……いつから?」 「……わかんない」 そんなの分からない。 いけすかない奴だと、天敵だと、思っていた筈なのに。 常葉の鼓動が、少し早く大きく感じた。 それとも、これは桜子の鼓動だろうか? 静かになった部屋に、薔薇の香りを含んだ風が吹き込んだ。 桜子と常葉の同じ色の髪が、ふんわりと巻き上げられる。 「だいっきらいなのに……」 「だったのに、でしょ」 まさかあいつがライバルとはねーと常葉がため息をついた。 紫苑が本命かと思ってたのに。 ダークホースのお出ましだ。 「本命?」
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