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「だって、さくちゃん紫苑と話すとよく赤くなるし、ちょくちょくうっとり眺めてるじゃん」
「……うっとり」
「僕はあんな視線もらったことないんだけど」
それは致し方がないだろう。
なんせ、桜子と常葉はそっくりなのだから。
常葉を眺めてうっとりするほど、桜子はナルシストではなかったし、どうしても近しい血を感じるせいで家族に対するような、ぞんざいな扱いが顔を出す。
「だって綺麗なんだもん」
桜子は、つい最近まであんな麗しい生き物を生で見たことはなかったし、怖いまでの美貌とは裏腹に少し抜けたところのある善良そのものである紫苑を嫌う謂れがない。
しかし、それが恋かと言われたら違うのだろう。
どちらかと言うと、テレビの向こうのアイドルや俳優を眺める心境のが近いものがある。
それなら、なぜ青藍なのだろう。
桜子は思わず記憶のページを捲った。
初対面のときの印象の最悪さや、無理矢理に封印を解いたときの横暴さ、悲鳴をあげる桜子を高い場所から突き落とす鬼畜っぷりが次々と現れて、それのどこにときめく要素があるのだろうと、自分自身にあきれ果てた。
「……さくちゃんって、Mだったんだね」
「……言わないで」
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