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「……痛いのやだ」
口調が少し幼くなるのは、常葉に甘えている証拠だ。
しかし、割りと察しがいい方である常葉も、自分のこととなるとなかなか気がつかない。
「そうだねぇ。でもさ、僕だって痛いんだけど?」
桜子を抱き締めたまま、常葉の唇が桜子の額に当てられた。
「大人しく負けてやる気はないけど、僕の好きな人はさくちゃんなんだよ」
好きな子が、別な男を想って涙しているから、僕の胸は締め付けられて壊れそうだ。
思わずうつむいた桜子の頬を、常葉のしなやかな指が撫でる。
桜子からすると、あれだけ引きも切らさず女の香りをさせている常葉が、自分を本気で好いているとは思っていなかったし
誰よりも麗しく、もちろんすさまじくモテるであろう紫苑の隣にいる自分も想像出来ない。
そして、憧れの……初恋の人の子どもとしか思われていない青藍との距離が縮む気もしなかった。
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