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ざわり
桜子を遠巻きで眺めていた人達が、ひとつの方向をみてざわめいた。
察した桜子の肩に、また力が入る。
スラリと姿勢がよくきちんとセットされた金髪も相まって、まるで物語のなかの王子さまのような紫苑が、黒髪の女の子をエスコートしてくるのが見えた。
階段を降りるときに差し出した白い手袋の手が、妙に鮮やかに目に止まる。
そっとその上に添えられた白い指の爪には、深紅のネイルが施されていた。
ほぅ……っと、みなが思わずため息をついた。
艶やかな黒髪を結い上げ、深紅のドレスに身を包む彼女が、ゆっくりと長い睫毛を上げた。
「ふぅん、あれが杏仁豆腐の飾りかぁ」
桜子にしか聞こえない大きさで呟く常葉の声には、別段驚きはみられない。
「……綺麗ね。豪華なカップルだわ」
「そう?色的には青藍のが対に見えそうだけど」
意地悪な常葉の言葉を聞き流す桜子の瞳に飛び込んできたのは、艶やかな黒髪をオールバックにし、冷たい視線を光らせる青藍の姿だった。
あの冷たい瞳が、暖かくなる瞬間を知っている。
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