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それだけが、今の桜子の心の支えだった。
紅子の、艶やかな漆黒の瞳も、小さな紅い唇も、白い肌によく映えている。
けれど、彼女にはドレスよりも振り袖の方が似合いそうだ。
しかし、深紅のドレスにも着られてはいない。
些細な所作が美しく、柔らかなドレスのドレープが優雅に流れていく。
「……付け焼き刃とは、雲泥の差ね」
「そう?負けず劣らずさくちゃんも華やかだよ?」
隣に立つよく似た再従兄を見上げた。
なるほど華やかではあるかも知れない、けれど桜子には彼女のような淑やかな色気は出さないだろう。
淑やかなのに色っぽいとか、どんな芸当だと桜子は思う。
今の自分にあるのは容姿の華やかのみ、内面から滲みでるような優美さの前に立てば、安っぽい造花にでもなった気分だ。
「はじめまして、橘紅子と申します」
本日はお招きに預かりましてと続く可愛らしい声を、桜子は少し遠くから聞いているような気分だった。
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