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「東雲桜子と申します。はじめまして」
透き通るような澄んだ声でそう言うと、ふわりと微笑んで見せたさくちゃんの姿からは、先程までぶつぶつと呟いていた自信のなさ等欠片も感じ取れない。
お目にかかれて光栄ですと、東雲の姫としてのその姿は、一見華やかで可憐でありながら内に秘める強さを感じられた。
紅子につくか、さくちゃんにつくか、息を潜めて固唾を飲んでいる古狸や古狐たちの視線など、欠片も気にしてはいないかのようにさくちゃんは甘く甘く微笑んでいる。
「紅子さま、なにがお好みですか?」
側に来たウェイターからグラスを2つ手に取った紫苑が、さくちゃんに負けず劣らずの甘やかさで紅子に微笑みかける。
紫苑の言葉に、微かにさくちゃんの微笑みに揺らぎが見えた。
きっと、僕しか気がついてもいないような些細なもの。
他の人たちには、気がつくことも不可能だろう、微かな揺らめき。
視線を感じてさくちゃんから目を離すと、こちらを黙って見ている青藍がいた。
ううん、僕じゃなくてさくちゃんを見つめる青藍が。
何を思っているのか、今一つ僕らにも分からない青藍は、いつも通りニコリともしないで佇んでいる。
なんだ、気が付いたのは僕だけじゃなかったね。
きっと、青藍も気が付いている筈だ。
ふーん、なんだつまんないの。
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