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ご対面っていう一仕事を終えたさくちゃんから、ふわりと漂う気だるさに、無意識の色気を感じてしまう。
表情には出さずテーブルに向かう僕の方を見ていたのは、意外にも紫苑だった。
「……こんなところで盛らないでください」
「……ばかなの?」
すれ違い様に無音の声で囁くのは、王子さま然とした紫苑の見掛けからは想像もできない言葉。
やれやれ、いつまでさくちゃんの前で猫被っていられるかな?
善良な猫のしたには、しなやかな獣がいる。
さくちゃんなんてパクリと一口で食べられるような、獣が。
ふん、紫苑なんて杏仁豆腐の飾りと仲良くしてりゃいいんだよ。
気に入られてるみたいだから、僕としてはライバルが減って嬉しい限りだね。
さくちゃんが好みそうな桃のネクターのグラスと、自分が飲むようのシャンパンのグラスを手に取った僕は、なにか摘まむものを持っていってあげた方がいいんだろうなと思った。
今日の集まりは内輪のもの。
……数少ない鬼たちの集い。
食べなくても生きていけるのがステータスでもあるこの場で、さくちゃんに食べ物を与えるのは賢い選択とは言えないだろう。
まぁ、緊張しててそれどころじゃないだろうから、飲み物だけで我慢してもらおう。
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