第5章

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常葉が飲み物を取りに行ってくれている間、桜子は疲れた足を投げ出して芝生の上に座りたい気持ちを堪えて、おしとやかな女の子を装いつつ静かにベンチに腰掛けていた。 ヒールの高い靴は歩きにくい。 普通にしていても歩きにくいものなのに、今日の足元は芝生の場所が多いのだ。 庭園の小道はきれいに舗装されているけれど、そこから少し入った場所はどこもかしこも芝生になっている。 裸足で走ってそのまま寝転んだら気持ち良さそうなのにと、桜子の頭のなかは現実逃避中だった。 桜子が母屋である古城に来たのは、数えるほど。 そして、庭園に足を踏み入れたのは今日が初めてだった。 ここにいる大半の人より、勝手が分からないだろう。 そんな桜子の耳に、聞こえるか聞こえないかくらいの声がヒソヒソと流れてくる。 「蒼子さまに似てるわね」 「そうかしら?色が違うだけで、こんなにも品がなくなりますのね」 「フフ、それは仕方ないことじゃなくて?」 「そうですわよね。なんといっても、人間との混血ですもの」 「人間と……だなんて、考えただけで鳥肌ものですわ」 「あの蒼子さまが騙されてたなんてことはないと思うのよ。でも、それじゃあ理由が分かりませんものね?」 「ふん、あれのどこが桜花の蒼なんだ」 「いえね、変化すると……らしいですよ?」 「あんな小娘捻り潰してやればいいものを」 「おや、では紅子さまに?」 「あちらも気に食わんな。わしをみて挨拶もなしじゃ」
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