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常葉が飲み物を取りに行ってくれている間、桜子は疲れた足を投げ出して芝生の上に座りたい気持ちを堪えて、おしとやかな女の子を装いつつ静かにベンチに腰掛けていた。
ヒールの高い靴は歩きにくい。
普通にしていても歩きにくいものなのに、今日の足元は芝生の場所が多いのだ。
庭園の小道はきれいに舗装されているけれど、そこから少し入った場所はどこもかしこも芝生になっている。
裸足で走ってそのまま寝転んだら気持ち良さそうなのにと、桜子の頭のなかは現実逃避中だった。
桜子が母屋である古城に来たのは、数えるほど。
そして、庭園に足を踏み入れたのは今日が初めてだった。
ここにいる大半の人より、勝手が分からないだろう。
そんな桜子の耳に、聞こえるか聞こえないかくらいの声がヒソヒソと流れてくる。
「蒼子さまに似てるわね」
「そうかしら?色が違うだけで、こんなにも品がなくなりますのね」
「フフ、それは仕方ないことじゃなくて?」
「そうですわよね。なんといっても、人間との混血ですもの」
「人間と……だなんて、考えただけで鳥肌ものですわ」
「あの蒼子さまが騙されてたなんてことはないと思うのよ。でも、それじゃあ理由が分かりませんものね?」
「ふん、あれのどこが桜花の蒼なんだ」
「いえね、変化すると……らしいですよ?」
「あんな小娘捻り潰してやればいいものを」
「おや、では紅子さまに?」
「あちらも気に食わんな。わしをみて挨拶もなしじゃ」
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