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「フフッ、みんな言いたい放題ね」
ここの人たちが気配を消して近寄ってくることには慣れていていた筈なのに、不意に後ろから話し掛けられると思わず心臓が飛び跳ねた。
「……紅子さま」
「桜子さまも大変ね」
まるで他人事のように言うのは、自分が純粋な鬼だからだろうか。
言葉に含まれるものがなんなのかは分からなかったけれど、桜子はいつも通り警戒しておくことにした。
「紫苑はどうしたんですか?」
話を反らそうとして、さっきまで紅子の側にいた筈の紫苑の名前を口にした。
急に、回りの『その他大勢』の空気が大きくざわめいた。
今の言葉のどこに、そんなざわつくような所があったのだろうと、桜子は困惑しながら首をかしげた。
「紫苑さま、は飲み物をとりに行ってくださってるの」
紅子の言葉の区切られた所で、桜子はやっと気がついた。
実の祖父を月白さまと呼ばなければいけないのなら、きっとNo.3である紫苑のことも、紫苑さまと呼ばなければいけなかったのだろう。
やってしまったと額を押さえたいところだけれど、余計に事態を悪化させそうなので、それはグッと堪えておいた。
「仲良しなのね」
「えぇ、いつも良くしてくださいますから」
否定するより肯定する方がいい。
咄嗟に肌でそう感じた桜子は、笑みを浮かべて返事をする。
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