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「まだ、青藍さまにご挨拶してないわ」
桜子がひんやりとした桃のネクターを楽しんでいると、一口だけグラスを傾けた紅子が言う。
桜子は、ギュッと締め付けられるように痛んだ胸のうちを、悟られないようにゆっくりと息を吸った。
「あれ?見当たりませんね」
紫苑がクルリと辺りを見回して、どこに行ったのでしょうと首を傾げた。
桜子の心臓はドクリドクリと嫌な音を立てる。
「まぁ、青藍は自由人だからねー」
またどっかフラフラしてんじゃないの?
常葉の興味なさそうな言葉に、紅子の口角がキュッと上にあがった。
笑ったようでいて、そうではないのは目をみれば一目瞭然。
艶やかな紅いの唇が、不服そうに歪んだ。
「私にも興味ないってことですのね」
「だろうね」
自分に興味ない人など居るわけがないとでも言うような言葉の響きに、常葉がだるそうに返事をする。
紫苑は礼儀正しいのが通常運転だから違和感がないけれど、いつも通り過ぎる常葉はどうなんだろう。
それとも、これがNo.4の余裕ってやつなのかしら?
桜子の心臓は今だ大人しくなる気配はない。
顔に出さないでいられているかも、もう分からなくなっていた。
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