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桜子の胸のなかで何かが弾けたようだった。
不安と恐怖、嘆きと悲しみ、憤りと怒り。
「……な、んでっ!!」
なぜ自分なんだ。
拠り所をなくして、泣いていただけの自分が、まるで遠いときの向こう。
一気に流れ込んできた情報と、想い、自分の立ち位置の危うさに切れ切れに悲鳴があがる。
「さくちゃん、さくちゃん……」
名前を呼びながら抱き締める常葉も『大丈夫だよ』とは言わない。
まだまだ、これからなのだ、と。
泣くでもなく、ただただ悲鳴をあげ喉も裂けよと叫び続ける桜子を、ただただ抱き締めていた。
ゆっくりと闇のなかに佇みながら、その鬼はなにを想うのか。
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