50人が本棚に入れています
本棚に追加
「…誰も、いない…?」
確かに聞こえた。それも至近距離で。
私は眉をひそめ、再び席についた。
不意に‘声’はまた語り掛ける。
『…驚かせてしまい、申し訳ありません。私は貴方の器に宿るもう一人の貴方なのですよ。ロード・レアモン』
「…え」
私は思わず、声を漏らしていた。
…どういう事だ?
確かにまた聞こえた。至近距離、と言うよりは、正に声の言う通り私の内部から。
訳が分からず、激しく動揺した。
『そう焦らなくとも大丈夫です。ただ、私は貴方の心を軽くする…その方法を知っているので語りかけました』
穏やかともとれる、笑みを含んだその声に、私はつい心を傾けてしまう。
…私の心を軽くする?
ともすれば、いやいやいや、と私は頭を振っていた。
…こんな声が聞こえるなんて。私はきっと何処かがおかしいに違いない。
直ぐにでもあの方に進言して対処を…
『そんな事をすれば、たちまち貴方は廃棄処分となりますよ? ロード・レアモン』
椅子から一旦立ち上がった足を止め、なに、と眉を寄せた。
『誰にも漏らさず、貴方は貴方の心を軽くする…その方法のみを考えるのです』
気付くと私は口を結び、その‘内なる声’に語り掛けていた。
最初のコメントを投稿しよう!