Another side ③ 内なる人格

3/13
前へ
/527ページ
次へ
「…誰も、いない…?」 確かに聞こえた。それも至近距離で。 私は眉をひそめ、再び席についた。 不意に‘声’はまた語り掛ける。 『…驚かせてしまい、申し訳ありません。私は貴方の(なか)に宿るもう一人の貴方なのですよ。ロード・レアモン』 「…え」 私は思わず、声を漏らしていた。 …どういう事だ? 確かにまた聞こえた。至近距離、と言うよりは、正に声の言う通り私の内部から。 訳が分からず、激しく動揺した。 『そう焦らなくとも大丈夫です。ただ、私は貴方の心を軽くする…その方法を知っているので語りかけました』 穏やかともとれる、笑みを含んだその声に、私はつい心を傾けてしまう。 …私の心を軽くする? ともすれば、いやいやいや、と私は頭を振っていた。 …こんな声が聞こえるなんて。私はきっと何処かがおかしいに違いない。 直ぐにでもあの方に進言して対処を… 『そんな事をすれば、たちまち貴方は廃棄処分となりますよ? ロード・レアモン』 椅子から一旦立ち上がった足を止め、なに、と眉を寄せた。 『誰にも漏らさず、貴方は貴方の心を軽くする…その方法のみを考えるのです』 気付くと私は口を結び、その‘内なる声’に語り掛けていた。
/527ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加