922人が本棚に入れています
本棚に追加
恋をしないと思ったからあれきりしなかった訳ではない。最初の恋の真ん中は全てが幸せだった
悲しかったのは別れだけだ。言ってみれば
その強烈で幸福な思い出がチラついて、そのまどろみの中で懲りずに浸って。そして結局私はある日気付いた
この店を思うとショーゴさんが自然とセットで出て来る。習慣のような一連の流れ。彼はその事まで想定して私にここを与えたのだろう、と。ハッキリと思った
「…イライラしていますね」
「こんな風になる事は、あまりないのですけどね」
良いからお行きなさい、と手を振るとその手を掴まれる
「普段のあなたは誰にでも平等で、いつも誰かと笑っていて」
「…ちょ、何を…」
右手が、指と指を絡ませて握られる。恋人繋ぎとか言う、あの一歩先の関係のみがやるアレな繋ぎ方の不慣れさに驚いて、私は解こうと席の奥に体を引いたら
左条さんもそのまま席に乗り上げて来て不足の事態です
「さ!ちょ!何乗って来てるんですか!」
「何、と言われても。別段普段と違う事をしてるつもりはないですが」
この、離さない手の繋ぎ方、違うでしょ?そうでしょ?これ、した事ないでしょう?
なぜこの人はいつもいつもこのテンションなのだ
「離れて…」
「…」
壁に追い詰められる。体を折り畳んで、離れない手をどうにかしたいと思いながら。左条さんの近さは彼が言うようにいつもと同じなのに、私は心臓が激しく動いて軽くパニックを起こしてしまって
きっと顔も赤い、かも知れない。うぅ…
最初のコメントを投稿しよう!