海原十月 其の一

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 海原十月(かいばらとつき)は実に仕事熱心な女の子だ。 大学に通う傍ら、この店で平均週四日のシフトをこなす。 平日は学校が終わってから四時間程の勤務が多いが、週末ともなれば八時間フルタイムの勤務も淡々とこなす。しかも彼女と出会って約一年。 無遅刻、無欠勤。  当たり前だと言われるかもしれないがアルバイトなんて一年に一回くらいは何らかの理由で遅刻なり欠勤するのが当然と思っている僕にとって、一年間の皆勤賞は賞賛に値する。  ルックスは僕が今まで出会った女性の中ではレベルの高い部類に入る。背は女の子にしてはちょっと高めで百六十センチ半ばくらいだろうか。すらっとした細身の体系はスレンダーと呼ぶに相応しく、茶色がかったセミロングの髪、アニメの声優でもできそうな声を伴った感じのよい接客は常連のファンも多いようだ。  僕としては自由にシフトを組めることは嬉しいことなのだけれど、年頃の女の子なのだから休日くらい友人と遊びに出かけたり、それこそ恋人とデートするくらいあってもよさそうなのものなのだ。だがしかし、彼女が毎月提出してくる出勤可能予定表は相も変わらず「平日、十八時からクローズ。土日祝日フリー」の文字が日付と時間の枠を完全に無視して、女の子らしい整った文字で記されていた。文末に付け加えられたハートが「シフト削ったら怒っちゃうぞ」の意味に見えてきたのはここ最近のことである。一人暮らしということは聞いているが、そこまでして稼がなければいけない理由があるほどお金に困っているようには見えないのだが。そんなことを考えながら来月のシフト表を作成していると事務所のドアをノックする音が聞こえた。 「どうぞ」  僕がパソコンに向かったままノックにそう応えると背面の扉が、がちゃり、と開きメガネの小柄な少女が顔をのぞかせた。 「にゃんこか。どうした?」 「にゃんこじゃないです!宮古(みやこ)です!」  彼女は宮古瑠華(みやこるか)。一見高校一年生くらいに見える小柄で化粧気もない少女だがこれでも二十歳のフリーターだ。 「そうだっけ?」  視線を彼女の頭に向けたまま固定。瑠華は一瞬戸惑った表情で小首を傾げたが、僕がその動きに合わせて同じ方向に首をかしげると、はっと気づいたように頭を両手で隠した。 「にゃー!耳はついてないです!ちゃんと顔の横についてます!」
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