海原十月 其の一

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 瑠華はこれでもこの店のサブマネージャというポジションである。店舗の営業時間は朝は七時から夜は二十一時まで。当然社員が僕一名では年中無休の店舗を一人で切り盛りし続けるのは不可能であるため、アルバイトの何名かにサブマネージャというポジションを与え社員代理としての仕事をしてもらっているわけだ。最近のファーストフードやカフェ業界では珍しいことではない。  一つ珍しいとすれば瑠華のような所謂「猫属性」のサブマネージャが存在しているころであろう。 「別に酷くはないだろ。君の猫語にほぼ十割の確率で一年もリアクションし続けているんだから。他人に興味を持たれることは喜ばしいこととは思わないか?」 「にゅ。そういう前向きな言葉で店長の変態趣味を肯定しないでください」 「で?何か用があったんじゃないのか?」  このやり取りは始まると切りがないので話題を切り替える。瑠華は思い出したように少々焦った表情を見せる。 「そ、そうですよ!海原さんがまだ来てないみたいなんですよ!」 「海原?珍しいな」  時計を見ると時間は午後六時の十分ほど前だった。海原の勤務は午後六時から。十分前には入店作業に入ることが店舗ルールであるため通常は余裕を持って三十分程前には店舗に到着しているのが普通だ。    この時間で店舗に到着していないということは遅刻は確定である。    海原が遅刻するという現場に僕は今まで居合わせたことがなかったし瑠華を始め、他のサブマネージャからも報告されたことはなかった。何か学校で緊急な会合でも開かれたのだろうか。それにしてはこの時間まで何の連絡もないのはおかしい。僕はパソコンの上の棚から従業員名簿を取り出し海原の携帯電話の番号を探し出す。 「ちょっと電話してみるか」 「にゅ。お願いします」
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