君が笑ってくれるなら

8/17
212人が本棚に入れています
本棚に追加
/303ページ
「なっ! ななななんの話だ、は、花言葉ってなんだ」 「あらやだ、おもっきり動揺しといて今更ばっくれるかしら。じゃあアタシが言うわよ? 言っちゃうわよ? あっちゃんの名前。『葵』の花言葉は、『楽しい思い出』よね」 え。 楽しい、思い出。 奏介さんがつけてくれた、僕の名前の、それが意味。 「記憶なんてなくたって、これから二人で思い出を作っていこうよ、って言いたかったかしらね? まぁ、可愛らしいこと」 「ふん、何とでも言え。この俺が花言葉なんてな、似合わないのはわかってるさ」 「そうでもないわよ、ただ意外だっただけ。拗ねるんじゃないの」 「何となくだ。育て方を調べた時にたまたま見つけて、何となく気になって覚えてただけだ」 「言い訳しなくていいってば」 まだ胸がドキドキしてる。 この名前に、そんな意味があったなんて。 思わず手が止まってしまったけれど、気を取り直してシャツのボタンを留める。 奏介さんは僕より背が高いし体格もいいから、当然シャツもかなり大きくてぶかぶかだ。 ズボンの裾を折り返し、シャツの袖をたくし上げたら、まるで子供がお父さんの服を着たみたいになった。 かなり不格好だけれど今は仕方ない。 「あの、真美さん、おはようございます」 そっとドアを開けて廊下に出ると、二人の視線が一斉に僕に注がれた。 あれ、こんなこと前にもあったような?
/303ページ

最初のコメントを投稿しよう!