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「なっ! ななななんの話だ、は、花言葉ってなんだ」
「あらやだ、おもっきり動揺しといて今更ばっくれるかしら。じゃあアタシが言うわよ? 言っちゃうわよ? あっちゃんの名前。『葵』の花言葉は、『楽しい思い出』よね」
え。
楽しい、思い出。
奏介さんがつけてくれた、僕の名前の、それが意味。
「記憶なんてなくたって、これから二人で思い出を作っていこうよ、って言いたかったかしらね? まぁ、可愛らしいこと」
「ふん、何とでも言え。この俺が花言葉なんてな、似合わないのはわかってるさ」
「そうでもないわよ、ただ意外だっただけ。拗ねるんじゃないの」
「何となくだ。育て方を調べた時にたまたま見つけて、何となく気になって覚えてただけだ」
「言い訳しなくていいってば」
まだ胸がドキドキしてる。
この名前に、そんな意味があったなんて。
思わず手が止まってしまったけれど、気を取り直してシャツのボタンを留める。
奏介さんは僕より背が高いし体格もいいから、当然シャツもかなり大きくてぶかぶかだ。
ズボンの裾を折り返し、シャツの袖をたくし上げたら、まるで子供がお父さんの服を着たみたいになった。
かなり不格好だけれど今は仕方ない。
「あの、真美さん、おはようございます」
そっとドアを開けて廊下に出ると、二人の視線が一斉に僕に注がれた。
あれ、こんなこと前にもあったような?
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