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「何だよ」
つられるように、マスターの声も低くなる。
「さっきからどうも様子がおかしいと思って聞いてたけど」
「何が」
ずい、と真美さんがマスターに一歩詰め寄った。
今朝はまだほんのりと薄化粧の顔が、マスターまであと3cmと迫る。
「つまりもしかして……、あんたもこっちの人だったってわけ?」
「は? ……ばっ、馬鹿野郎! んなわけねぇだろ! 俺ぁ結婚してたんだぞ?!」
「過去形にしてんじゃないわよ。今も継続中でしょ、書類上は。アタシは、あんたがバイだったのかって聞いてんの」
「だから、んなわけねぇって! ふざけんなよ、おまえと一緒にすんな!」
ちょっとマスターの語気が荒くなる。
「ふざけてなんかないわよ。ていうか、あんたこそふざけないで。アタシはバイじゃなくてこの道一本槍。そこんとこ間違えないで欲しいわね。別にバイをバカにするわけじゃないけど、アタシにはアタシの誇りがあんの」
倍?
何が倍?
倍じゃなくて一本槍???
「これでもアタシ、自分の生きざまに胸張っててんのよ。生半可な気持ちでこの道歩いてるわけじゃないんだから」
「……すまん」
「わかればよろしい」
剣幕に押されたわけでもないだろうけど、マスターは素直に謝った。
真美さんはフンッと大きく鼻息を吐いた。
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