KISUMI

15/27
前へ
/303ページ
次へ
向い合って話してた二人は、僕に気づくともの凄い勢いでこちらを見た。 漫画だったら『ビュン!!』って効果音が付きそうなほどの素早さで。 「あ、あら、おはよう。そこにいたの。いつから?」 真美さんの顔が少し引き攣って見える。 隣のマスターは、思いっきり固まっている。 やっぱり聞かれたくない話だったんだな? 「植木鉢に水やりしてたんですけど、考え事してたのでお二人が入ってきたことに気づきませんでした」 「そ、それはまた、随分集中してたのね」 「はい、すみません」 「あらぁ、謝ることなんてないのよぉ」 明らかにホッとした顔の真美さんが、甘ったるく語尾を伸ばして言う。 そしてマスターの口から堪え切れない安堵の吐息が漏れた。 嘘も方便、と僕は心のなかで繰り返す。 「昨夜はよく眠れた? こいつのイビキ、うるさくなかった?」 「いえ、そんなことないです! 僕の方こそ、もしかして寝相が悪くてマスターよく眠れなかったんじゃないかと。すみません」 「気にしないの。こいつね、前は別の場所にマンション借りて夫婦で住んでたんだけど、嫁に逃げられてから上の空き部屋に越してきたのよ。だから家具も揃ってなくて、ごめんなさいね」
/303ページ

最初のコメントを投稿しよう!

212人が本棚に入れています
本棚に追加