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「湊さん、それ……」
「琴」
言いかけていた私の言葉を遮って、湊さんは座っている私と目線が合うように片膝を床につけてしゃがんだ。
突然近くなった距離に息を呑んで驚き、真っ直ぐに見つめてくれる彼の真剣な瞳に瞬きさえも忘れて見入った。
小箱を持っていない左手を伸ばし、私のサイドの髪を梳く彼の指先は何かを確かめているようだ。
ただこの場所を懐かしむだけじゃない雰囲気に、私の緊張は一気に高まる。
それは湊さんも同じだったのか、なかなか次に続く言葉が出ない。
私の髪を何度か手櫛で往復させたあと、その重い口を開いた。
そして伝えてくれた言葉。
私は、太ももの上に両手を乗せ、彼の声に全神経を集中させた。
グラウンドで部活動に励む部員達の声も全く聞えなくなる位、彼に全てを預けた。
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