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この数分の間に何度自分の腕時計で時間を確かめただろう。 彼女がこのフロアを出て10分ほど過ぎたら後を追いかけようと考えていた俺は、その時をずっと待っていた。 琴に「二人でもう一度、話がしたい」と言われ、彼女なりに色々と覚悟決め、決意した事だからもう何も言わなかったが、きっと築島に言いように言い包められているに決まっている。 昔から口だけは上手い女だった。それだけはよく覚えている。 だから真っ白で素直な彼女は、間違いなく大した反論も出来ないまま佇んでいるだろう。 ……そんな姿は想像しただけで胸が張り裂けそうだ。 誰にも聞こえないようにため息をつき、平静を装って椅子から立ち上がった。 吉沢さんはこちらを見ていたようだが、止められないという事は俺の行動に不満はないのだろう。 こういう時、判断力に長けているあの人には心から感謝をする。
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