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こんな場所で、こんな時に、貪るように口付けをしてどうなるというのか。
でも、どう慰めて落ち着けてあげればいいのか方法がわからなかった。
そしてこんな俺の為に涙を流して必死になろうとしてくれる彼女の姿が、堪らなく愛おしかった。
俺よりずっと冷静な彼女はどうにか逃れようと後ろに下がるけれど、狭い非常階段はすぐに壁に辿り着く。
ネクタイを引っ張り抵抗をするが、その手はすぐに弱弱しく下に落ちていった。
「……はっ…はぁ……ひ…らぎさ…」
重なっていた唇を離し、両手で頬を包み込んであげると腕を伸ばし、琴は俺の胸に飛び込んできた。
回した腕には目一杯の力を込めている。
その力は愛おしくて抱きついてきたのではなくて、込み上げてくる感情を俺にぶつけているようだった。
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