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明るい表情から暗く悲しげな顔になった築島は、その色白の肌とか細い体がそう思わせるのか、酷く傷ついた表情をしている。 ここで何も知らない俺なら、もしかしたら一言励ましの言葉をかけていたのかもしれない。 でも、この顔以上に傷つき、それでもなお今一人で頑張っている彼女が俺を待っている。 そう思うだけで、どこまでも冷徹に徹する事が出来る。 「お芝居はもう充分です。早く返してください。これでも忙しい身なので」 鞄を持っていない手を出し、催促する。だが、築島は裸足のままで飛び出して俺の手を取り、そのまま抱きついてきた。 「……何をっ……」 「酷い事をいっぱいしてごめんなさい…でも、こうしたかったの。 ずっと、もう一度柊君とこうしたかったの。ただ、それだけなの……」
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