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身体を俺に押し付けてくる築島に、全身がどうしようもなく汚された気がして震えた。 片手で突き放そうとしても全力で抱きついていて、少しも離れる事が出来ない。 「…離れて下さい」 自分でも恐ろしいほどの低い声が出た。 それでも俺の胸に顔を埋めてくる築島。 ゆっくりと見上げた顔の目には薄っすらと涙が溜まっていた。 「……柊君」 「芝居はもういいと言ったでしょう。これ以上俺を怒らせないで下さい」 「そんなに怖い事言わないで。あなたらしくないわ」 「あなたが俺の何を知っているのですか。表面上の俺ばかりを見ていて、俺自身の事を何も知ろうともしなかったあなたが。 そんな事がわからないほど、昔の俺も今の俺も馬鹿じゃない」 その瞬間、フッと影を見せた築島の瞳。 その瞳は酷く歪んでいて、暗くて深い色を見た様な気がした。
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