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築島は乾いた笑いを零し、髪をかきあげてやる気のない虚ろな瞳になった。
そしてワンピースのポケットに手を入れ、やっと返す気になったのだろうと肩の荷が下りたところで築島の動きは止まった。
「あの時……あなたが言っていたずっと好きだった女の子って御坂さんの事でしょう?」
視線はもう俺を見ようともせず、斜め下の玄関の縁を見ながら何かを思い出しながら語る築島の言葉に俺には心当たりがあった。
肩で抑えていた玄関に体重を預け、”あの時”の事を思い出す。
「本っ当、柊君って好意を持った相手以外にはデリカシーないわよね。
自分を好きだと言っている女の子を目の前にして初恋の人の話をするなんて、何て馬鹿な男に興味を持ったんだってあの時は心底後悔したわ」
築島は当時の自分が余程滑稽なのか、自虐的に笑っている。
俺はその様をただずっと見ていた。
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