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ポケットに入れていた手の手首を痛みを与えるほどに握り締め、勢いよく上に上げた。 その手には先ほど見せられたUSBとメモリースティックが掴まれていて、俺は強引にそれを奪い取る。 「あら、取られちゃった」 この場が可笑しいのか、それとももう諦めているのかわからないが、築島の態度はどこまでも飄々としていて掴みどころがなかった。 それでも、自分の手の中にやっと収まった琴の努力が詰まった物を大切に握り締める。 これでやっとあの子の元に帰れる…という感情が昂ぶってくる。 築島に背を向け、もう用はないと立ち去ろうとすると後ろから築島の小さな声が聞こえてきた。 「あんな子…どこにでもいるじゃない。私の方がよっぽどこの仕事に向いているわ……なんであの子ばっかり…私が欲しかった物を手に入れることが出来るのよ…」 後ろから聞こえてくる声、それは本当に悔しさが滲み出て振り絞ったように出した声だった。
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