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「琴?」 首を傾けて彼女の顔を覗きこむ。 俺の胸の中で止まったまま動かない琴は、表情も瞬きさえも停止していた。 「どうした?琴」 微かに動いた指先は俺のジャケットの裾を握り締めている。 何に不安になっているのか検討がつかない中、俺はポケットの中にある琴が待ち望んでいた物を差し出した。 「もう安心していい。ちゃんと取り返してきたから…」 「……柊さん、築島さんと何をしてきたんですか?」 震えた声で俺に問いかけてきた声。 その言葉が耳に届いた時、俺自身も動きを止めてしまった。 「な、何をしてたの…?」 声だけでなく身体も震え始めた琴は、先ほどまでの喜ばしい表情は一切なくなり、悲しみだけが表れている。 そんな琴を見て、俺のこめかみから汗が一筋流れた。
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