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柊さんのその手は酷く冷たかった。 彼なりに必死にこの状況をどうにかしようと緊張してくれていた事がこの手から伝わってきて、もうそれだけで充分だった。 「…俺の身体、調べないのか?」 私のこの行動が不満なのか、まだそんな事を言っている彼に笑いが込みあがってくる。 シャツのボタンはもう最後の一つを残すのみとなっていて、私は彼の香りしかしないその肌に顔を埋め、背中に腕を回した。 「もう、充分伝わってきました。柊さんの気持ち。 大丈夫です、ちゃんと柊さんが言ってくれた事、信じますから。 それに会社でこんな事をしちゃうなんて、きっと前代未聞ですよ、柊さん」 クスクスっと笑う私を見て、バツが悪そうな彼は心なしかホッと安心しているようにも見えた。 私は思いっきり彼の香りを吸い込んで、全てが満たされていく感覚に陥る幸せを感じていた。
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