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すると、浅いため息が聞こえてきて抱き締められていた力が少し緩められた。 私を真横から覗く柊さんの表情は酷く疲れている。 緊張の糸が解けた彼の顔は、普段見れない年相応かそれよりも幼い顔つきをしていた。 そんな顔を見てしまっては、私の母性本能はフル回転で発揮してしまう。 「もう、帰りましょう、柊さん。帰ってご飯を食べてゆっくり休憩しましょ?」 頭を何度も優しく撫でながら自分でも驚くくらい落ち着いた声が出た。 私の声を聞いた彼はゆっくりと首を縦に振る。 ……ここで可愛い。っと言ってしまったら絶対に怒られるんだろうな。 彼のプライドを保つためにも、この気持ちは心に閉まっておかなければ。 それでも私に気を遣い、手を添えて立ち上がらせてくれた柊さんは、床に落ちているスーツのジャケットとネクタイとカフスを拾い上げた。 そして、なぜか着ようとはせず、ソレを手に持っている。
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