プロポーズ編

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大きめのワイングラスにゆっくり注がれたボルドー色のワインは、小さく波をうってグラスの中で揺れている。 湊さんからグラスを受け取ると、さすが高級ワインだけあって少し近づけるだけで程よい香りが鼻腔を刺激した。 そしてグラスの向こうには申し訳なさ気な彼の顔が見えた。 「少し…いや、かなり軽率だった」 反省の色がこれでもかと伺える彼の横顔。 ……そんな顔をされてしまうと、簡単に許してしまいそうになるけれど…… 「…私が何に対して怒っているのか…わかってます?」 「あぁ、本当はわかっていた。でも、一緒に暮らす事の了承を得るためにはあの時はああするしか方法がなかったんだ」 「それはわかってます…けど」 くるくるとワインをグラスの中で回して唇を尖らせる私。 湊さんの言う事は私にだってわかる。でも、どうしてもまだもやもやは心の中に残っているんだ。
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