プロポーズ編

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振り返ると、ネクタイを右手の指先で緩めながら怪訝な顔をして私を見下ろしている彼の顔がそこにある。 私の心臓はアイドリング状態で、生唾まで飲み込みんでしまった。 「お、お帰り…なさい。い、いつからそこに??」 「ただいま。今帰って来たばかりだが…何を見ているんだ?」 お酒の匂いを仄かに漂わせた彼の顔がすぐ隣に来る。 加納先生は煙草を吸う人なのかいつもは感じない煙草の匂いが混じっていて、心臓がアイドリング状態からさらに加速しそうな勢いだ。 「日帰り温泉?」 「えっ?あっ…いえ、その…」 「何だ、温泉に行きたいのか?」 「あの…はい…せっかく明日お休みだし…一緒に行きたいなって…」 すぐそばにある横顔はクスッと笑ったけれど、すぐに困った顔になる。 あれ?湊さんって温泉嫌いだったっけ?
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