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「ハァ…ハァ…」
夜8時
シャッターの閉まっている商店街を
仕事終わりに買ったケーキ片手に
スーツ姿の「ヒロ」は自宅へと走っていた
急ぎながらもケーキは崩さないよう
細心の注意を払う
今日は彼女と付き合って1年の記念日
早く帰りたいわけだ
どんな言葉を贈ろうか…
キザなことでもやってみるか…
彼女はどんな反応をするかな…
そんなことを考え
ニヤけながら走る
傍から見れば不審者だ
上がろうとする口角を抑えるが
それでも妄想は止まらない
小さな公園の横
古い木造アパートの前まで来て走るのを止め
息を整えながら2階への階段をあがる
角の201号室
ここが彼の…いや
彼と彼女の住居だ
ガチャッ
「ただいまぁ!」
ドアを開けながら近所迷惑なくらいの大声で言う
「おかえりっ!もぉー遅いよぉー」
元気いっぱいな声と笑顔で
彼女「サヤ」が迎えてくれた
「ごめんごめん、急に仕事が…」
事情を説明しながらネクタイを緩め
サヤにケーキを渡して
彼女の喜ぶ顔を確認してから風呂へ向かった
「今日はヒロの好きなモノ作ったからねー♪」
シャワーを浴びる彼を急かすようにサヤは言った
風呂から出てスウェットに着替えて首からタオルを下げながら
彼女の待つ食卓へと向かう
彼女はニコニコしながら待っている
テーブルには一人分の豪華な食事が並んでいた
「おぉ!すごいな!頑張ったじゃん!」
座りながら彼女の頭を撫でる
「えへへ♪」と照れる姿もまた可愛い
「いっただっきまぁーす!」
「はぁーい♪」
普通のカップルの普通の光景
「うまっ!天才じゃん!」
などと大袈裟にリアクションし
彼女が照れ笑い…
何も問題はない
彼女が食べないこと以外は…
「ふぅー、食べたなぁお腹いっぱいだ。めっちゃ美味しかったよ♪」
サヤが1時間かけて作った料理を
30分程で1人で完食し
満足気なヒロ
「よかった♪ありがとね♪」
サヤはそう言いながら長い黒髪を後ろで結び始める
「じゃあ私も『ごはん』にしよーかな♪」
「おう、いつでもいいぞ!」
ヒロは首のタオルを取り
首を傾げて彼女を迎える
サヤは彼の後ろに回り
手を合わせた
「いただきます♪」カプッ
サヤは彼の首に噛み付き
チューっと音を立てて吸う
「ぷはー、ほんとヒロって美味しい血だね♪」
彼女はヴァンパイアなのだ
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